その後、光太郎は数カ月現場で仕事をし、一通りのことを経験した。
ルーチンでただ退屈な日もあったし、一日があっという間に過ぎ去るようなバタバタした日もあった。
そしてその間、派遣社員の数名が入れ替わった。
各自事情で去っていく者、そして新参者。
今までに製造現場で経験がある者、初めての者。。。いろんなタイプがいた。
その彼らを見ていて、作業を上手くやる者とそうでない者があらわれた。
単純作業とは言え、上達速度や機転の利き、設備異常に敏感に反応できる感度など、個人差があることが見えてきたのだった。
Q:単純作業なのに、何でここまで個人差がでるの!?
光太郎の脳裏に当然ながら浮かんだ疑問。
そんなことを考えているうち、ある同僚のことを彼は思い出した。
同僚の派遣社員さんに面白い経歴の持ち主がいた。(仮名;Yさん)
以前風俗、いわゆるヘルスの店長職をしていたという。
いろんな理由から働きに応募してくる女性がやってきたというが、
そんな彼女たち風俗嬢も必ずしも当初から経験者ではないという。
ほぼ素人のような女性が働きに来たときは、もちろんそんな未経験の彼女たちをお客さんの前に出すわけにはいかず、いわゆる面接あるいは講習、研修と銘打って店長が客の代わりに ”実地さながらにさせる” のだという。
光太郎:『Yさん、質問があるんですが・・・』
Y:『ん? 男特有のエロい質問? そりゃぁまずいで、”この有限無限のブログは、エロ禁止” って筆者に言われたんや。あかんわ、そらなんでも。』
光太郎:『い、いや、、、ちゃいますよ。
さっきのお話、、それっていわば究極の接客業だとおもうんです。
であるならば、接客のサービスというか品質を上げるためにどんな工夫をしたんですか?』
Y:『なんや、やっぱりエロかいな・・・』
光太郎:『いや、真剣な話で。(笑) 具体的な研修内容じゃなくって、、、たとえばどんな指導方針やポリシーで教育を行ったかとか、どんな子が上達早かったとか。』
Y:『また難しいこと言うやないか。そんな頭痛いこと考えるわけないがな。
でも、率直に言うてみるわ。
あんまり方針やポリシーを気にしなかったけど、顧客満足をそら考えるわなぁ。細かいことは具体的すぎるから言わんけど、どうすれば喜んでくれるのかを分析して、それができるように教えるってことやん。
上達早かった子はなぁ、まず、そもそも本人が前向きにやれてるかどうか。
好きで楽しくやってた子は上達が早かった。
借金がどうとか事情のために義務感強くやってる子はそれに集中できてないというかねぇ。
それから、センスかな。
気が利く人とそうでない人が存在するように、あの世界にもちょっとした違いに気が付ける、そんな人ができる人やで。なんや、、、朝からもうそんなこと考えてたんか?お前は??』
光太郎:『・・・』
光太郎は自分が知らない世界を垣間見たようで思わず話に聞き入ってしまったのだった。
ただ、人が人に技術やスキルを伝えるという観点において、Y氏から聞いた話も彼自身の仕事も同様のことがあてはまると感じていたのだ。
そう考えると、人が仕事をするというこの世の中、
全ての産業は行きつくところ、教育産業をしているのかもしれない。
光太郎はかつて松下幸之助が言った言葉を思い出した。
”松下電器は人を作る会社です。あわせて電気製品を作っています。”
人が資本だというメッセージだったのかもしれないし、
人を教育することの重要性を伝えたのかもしれない。
光太郎はそうやって、現場でのフィールドワークをしつつ自分なりの知見を培っていったのであった。