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【光太郎の朝】老害の実感と予感

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■新旧が混在する製造現場

製造業というのは、最新の技術と旧態依然とした技術、いや手法が混在する場所だと言っていい。

 

もちろん手がける製品によって多少の差はあるものの、ある工法が最新の技術手法であったかと思うと、その後工程が人手の数をもってしかできないような光景を普通に見かけるものだ。


具体的に言えば、部品製作工程では、他社にマネできないような形状加工技術があったとしても、その部品を組立てる工程では家内制手工業のように町工場でパートの女性たちが作業しているといった状態で、必ずしも一貫して最新技術というのは、特別なケースで滅多にお目にかかれない。

 

いわば、製造業はノウハウや概念などによる知識集約型業務と、人手の数で勝負する労働集約型業務とに大きく分けられる。

 
そして、旧態依然とした技術の業務改善を行うべく技術関係の社員がいるというわけだ。

 

■新たな技術の出現と取込みの機会

ある日、新たな業務を提案した若者がいた。 

彼の提案は、手作業に頼る労働集約的な業務を自動化させることによって
生産性の向上によるコストダウン効果と、労働者の不要な怪我の回避(=安全)を狙ったもので、流行している、ITを用いた手法であり非常に合理的であった。

 

彼はそれを実現すべく会議資料や活動効果を詳細に至るまで作成し
上司や諸先輩に説明して回った。

 

光太郎の会社の行動基準は至ってシンプルで、
”会社の屋台骨を揺るがすような試みは慎重になるべきだが、基本的に良いと思えばやればいい”
つまり、 ”むこう傷をとがめない” というものであった。

 

しかし彼の活動は思うように簡単に進まないのであった。

いつもなら何の抵抗も喰らわずに業務改善をするはずの会社に何が生じたのだろう?

 

光太郎は社内の人脈を使い、その理由を調査したところ、
発案者の彼自身の問題ではなく、コンプライアンスや組織体制の在り方にこだわり過ぎて、会社が硬直化していることにあると耳にした。

 

発案者のルールが良ければすぐにでも行動に移し、実証後効果が証明されればすぐにでも実用化していくという一連の動作に対して、今まで以上にルールや決裁承認のプロセスが加わりアクションにスピード感がなくなったというのだ。

 

時代が変わっていき、従来の会社とは違う感覚を光太郎は感じた。

 

老害の実感と予感  

スピード感の欠損だけが問題ではない。

同じ釜の飯を食い、同じお客様のために働いているはずの組織にも関わらず、
社内で決裁承認者が多いことは、利害関係の対立した人間が混在してしまうことになる。 

たとえば品質維持に目を光らせる品質管理と、少しでも多く自分の作ったものを作り出していきたい開発・製造との対立や、業務内容の対立する政治的な理由であったりする。

 

しかし光太郎が耳にしたのはそれだけでもなかった。
先輩社員の愚痴とも僻みとも取れるような発言。

 

『今までのやり方で心血、労力を注いで必死で築き上げた手法を、
近年のIT発達や情報解決に手法によって、いとも簡単に改善され、
従来のやり方が駆逐されていく。
しかも省人化され今までの作業は不要となると、自分たちの存在価値が無い』

 

思うように進まない原因は、
知識を一杯詰め込んだ元気の良い若造に取って代わられることで
自分の居場所や仕事を取られるような危機感を感じる
高齢の社員や管理職たちの反対であった。

 

先輩社員は概して決裁権限や助言などにおける権力を行使して既得権益を守っているのだった。業務改善や技術の観点からみて効果的であったり正しいことであっても、そういったことが企業に浸透していかないのは、そんな一面もあるのだろう。

 

彼らは、

1.決裁権があるうちに自分の居場所を守りたい

2.定年までのあと数年をうまく乗り切ればそれで文句ない(=その後は知らん)

と考えているようであった。

 

光太郎は、技術や市場の変化が激しい現代において、
まだそんなことをやっている自分の組織の決定的な欠点に絶望感を感じずにはいられなかった。
彼らの小さな利権を守りたいという想いが組織を歪めていき、
問題が顕在化した将来の時点で彼らは既に会社には居ないのだ。

しかし、もし自分ならば同じことをやらないと言い切れるだろうか。

彼らの保守的な行動によって自分たちの組織が傾いてしまうのも事実だが、
組織といっても、結局はただの勤め先であって、自分の会社ではない。
定年までのあとわずか、楽に給料だけ引っ張ってこれたらそれで問題ないんだ、
自分が在籍している間だけ無事だったらそれでいいという考え方も、
長年勤めていると愛憎が混じった感情が会社に対して芽生えてくるのではないか?
と想像してみたりもした。

今後の時代の急激な流れを感じるに、それでは自分のいる組織が乗り切れないのではという危機感と、新たな価値観をもった組織が従来の組織体制を駆逐するであろう。

そして一言で老害と言っても、従来とは異質なものが出現してくる。

 

強い予感を光太郎は感じたのであった。

 

photo by spodzone